会員の皆様へお知らせ

2025年6月2日

第72回大会およびシンポジウムのご案内

■場所

東京海洋大学(〒108-8477 東京都港区港南4-5-7)

■日程

日程:2025年6月7日(土)~8日(日)
   6月7日(土):
   10:00~11:30 理事会(講義棟22番教室)
   13:00~17:30 大会シンポジウム
           「漁業協同組合の過去・現在・未来」(大講義室)
   18:00~20:00 懇親会(大学生協食堂)
   6月8日(日):
   10:00~12:00 一般報告(2会場:大講義室・講義棟22番教室)
   12:00~13:00 総  会(大講義室)
   14:00~16:30 ミニシンポジウム「内水面漁協が今すぐにできること」(大講義室)


*今年は国際協同組合年です。本大会は日本協同組合連携機構から2025国際協同組合年の
後援事業に認定され、「2025 国際協同組合年全国実行委員会後援事業」として実施しております。

■大会参加申し込みと参加費

大会への参加は無料ですので、特に事前申し込みは必要ありません。

■web参加について

■入会申し込み

入会申し込みは随時受け付けておりますが、大会会場でも入会申し込みできます。
(一般会員は会費3000円/年、学生会員は会費無料)。
ただ、大会時のスタッフ数が限られておりますので、大会会場で漁業経済学会への入会の申し込みをいただいた方の会費納入につきましては、当日現金支払いではなく別途払い込みをお願いさせていただきます。ご理解いただきますようお願いいたします。

■懇親会

第72回大会の懇親会を以下の通り、開催いたします。
日時:2025年6月7日(土)18:00−20:00
場所:東京海洋大学品川キャンパス大学生協食堂
会費:5,000円(事前振り込み)

申し込み方法:以下のURLか 右のQRコードからから参加申し込みをしてください。
参加申し込み期限:5月31日(定員50名)
https://app.payvent.net/embedded_forms/show/6787834c32c6d0268b247e2b

参加人数の上限がありますので、早めの申し込みをお願いいたします。
皆様のご参加を心よりお待ちしております。

【大会シンポジウム】

漁業協同組合の過去・現在・未来

■シンポジウムの会場とプログラム

6月7日(土) 東京海洋大学大講義室
13:00~13:15 佐野 雅昭(鹿児島大学)  代表理事挨拶 及び シンポ趣旨説明
13:20~13:50 濱田 武士(北海学園大学) 「漁協論の研究史から見る現代的課題」
13:50~14:10 斎藤  昇(JF全漁連)   「JFグループの新たな運動方針とその課題」

14:10~14:20 休憩

14:20~14:40 鈴木 崇史(鹿児島大学)
        「漁協による産地卸売市場運営の実態と課題―九州地方の沿岸漁業産地を事例にー」
14:40~15:00 阿部富士夫(元宮城県漁業協同組合志津川支所長)
        「漁協による漁場管理と経営改善―宮城県漁協志津川支所戸倉出張所の取り組みー」
15:00~15:20 工藤 貴史(東京海洋大学)
        「漁協の今日的役割-漁協の総合事業体としての可能性‐」

15:30~17:30 総合討論

シンポの趣旨と報告内容


コーディネーター 工藤貴史(東京海洋大学) 佐野雅昭(鹿児島大学)

今回は「漁協」に焦点を当てました。現実の漁業において、漁協の存在意義が問われています。かつて漁協は漁村におけるオールマイティな存在でした。本来漁協は地域共同体そのものであり、漁場利用調整を巡っては地域をまとめる唯一無二の意思決定機関でもありました。漁業種類ごとに漁協下部に作られた部会組織は地域資源を管理する主体となり、漁業権行使規則などのローカルルールを作成・運用してきました。また民間企業が採算性の欠如を理由にそのサービス網を延長しなかった条件不利地における唯一のサービス提供機関として、販売、購買、金融、保険など漁業経営だけではなく生活支援においても様々なサービスを漁民に提供してきました。

しかし、現在ではそうした状況が大きく変わりつつあります。物流網やネット環境が日本の隅々まで整備され、民間企業のサービス範囲が拡張しました。今では離島の漁民でもAmazonで米国の漁具を簡単に買える時代なのです。グローバリゼーションが徹底的に進み、漁村の生活を変えました。改正漁業法でも、漁協の地位はさまざまな文脈において低下しています。水産政策では個が「もうける」ことや個の「経済成長」が最大目標となり、漁協を中核とした「協働」や漁民と漁村の全体的な「営み」を軽視する傾向が強まっています。漁業者自身も変わりました。スマホとともに産まれたデジタルネイティブと呼ばれるZ世代の漁民も増えており、ネットを通じて世界と繋がっています。漁民個々が直接市場や消費者と繋がることを志向し、ダイレクトなネットワークがいたるところで見られるようになりました。こうした政策や社会の変化は地域共同体である漁協の意義を弱めています。漁協を飛び越えた漁民と消費者、企業の結びつきが増え、地域を越えた漁民の機能的なグループ化が進みました。逆に漁村外からも、環境NPOやネットビジネス企業などから様々な手が漁民個々を抱え込むように伸びています。これまで漁村の中核であった漁協の存在意義やそれに対する帰属意識は、明らかに薄れていると言えるでしょう。

このような状況において、漁協は今その存在意義を問われています。漁協は漁民にとって、これからも絶対に必要な存在、民間企業では代替できないものなのでしょうか。また国民や社会そして漁民にとって、漁協は必要なものなのでしょうか。もしそうであるとするならばそれはなぜなのでしょうか。我々漁業経済研究者は、そうした率直な国民と漁民の問いかけに、誠実かつ丁寧に答える必要があるでしょう。

当シンポジウムでは、現代における漁協の存在意義や今後の展望を検討する機会を設け、今後の当学会における漁協研究を深化・促進させる契機としたいと考えています。そこで漁協の存在意義やそのための課題、分析視角などを、多様なバックグランドを持つ報告者により多元的に提示していただき、会員間で共有することを第1の目的としました。

まず第1報告では濱田武士氏(北海学園大学)にこれまでの漁業論の研究史を概説いただき、それを踏まえた現代的な論点を提示していただきます。次いで第2報告では全国的な漁協の活動を総括している全漁連様より、現代の漁協の全体像や2025年からの新しい運動方針をお話しいただきます。第3報告では鈴木崇史氏(鹿児島大学)から、漁協の販売事業とくに疲弊が進む南九州の小規模産地卸売市場におけるその現状と課題について報告いただきます。第4報告では、阿部富士夫氏(宮城県漁協)より、志津川支所戸倉出張所における指導事業の取り組み、漁協による漁場管理と経営改善についてお話しいただきます。最後の第5報告ではコーディネーターの工藤貴史(東京海洋大学)より、これまでの活動範囲を越えた漁協の新しい取り組みと可能性について、具体的な事例に基づき報告いたします。

漁協は単純で画一的なものではなく、こうした短時間のシンポジウムで議論し尽くせるものではありません。そこで当シンポはまず漁協研究の過去を踏まえ、不十分ではありますが現在の漁協を再確認し、将来の漁協像を各会員それぞれが様々に展望する機会になれば良いと考えております。そこでこういうタイトルとさせていただきました。なお、養殖業や沖合・遠洋漁業は漁協との関わり方が大きく異なることが多いため、今回は漁船漁業特に沿岸漁船漁業に焦点を当てた議論を行いたいと考えています。

【第1報告】漁協論の研究史から見る現代的課題


濱田武士(北海学園大学)

本報告に与えられた課題は、過去から現在そして未来を見据えていくために、漁協論の研究史から現代的課題を論ずるということである。

既存研究については、2014年に一度整理したことがある。『協同組合研究の成果と課題 1980年-2012年』(2014年、家の光協会)の「第6章 漁業協同組合研究」(2014)にまとめている。詳細は割愛するが、この整理は他の協同組合セクターと横並びにして協同組合研究的視点から漁協の特殊性をまとめたものであった。したがって、存在意義を問うという今回のシンポジウムの趣旨に則った内容ではない。敢えて、今回のシンポジウム企画に与える論点があるとすれば次の点である。これまでの漁協に関連した研究が協同組合原則的な枠組みから漁協の考察が行われてこなかったこと、現代の漁協を鳥瞰せず、運動論、漁場利用論、事業論、経営論、合併論などクローズアップするものが多く、根本にあるはずの漁協論に行き詰まりがあったこと、である。

そこで、本報告では、過去研究を踏まえつつ漁協論がどのようにしたら深まるのかを論点として4点を提示しながら、現代そして未来の課題に繋げていきたい。

1つは、通説的に取り扱われてきた漁協の二面性(漁場管理団体であり、協同組合企業)の再認識である。この二面性が歴史的経緯を踏まえてどのように政策形成されたかというのは今日ではあまり触れられていない。そこを起点に現在の漁協の理解を深めると、二面性の解体は現状では現実的ではない。

2つめは、総合事業体としての実相である。漁協は総合農協と同じく信用事業、共済事業の兼営を制度的に許されている珍しい協同組合である。しかも、指導、経済、共済、信用事業のような連合会が提供するサービスの他に沿海地区漁協系統以外の上部団体ももち漁業共済や漁船保険のサービスも組合員に行き届いている。一方で販売事業では他漁協や沖合漁船などの荷を受けたりして事業基盤を形成している漁協もあり、員外利用に依存するケースも少なくない。リクリエーション関連事業を実施しているケースも非組合員が客として利用している。産地・観光地としての機能を引き受けている。漁協の総合事業体の存立は極めて多様化している。

3つめは、漁政活動と指導事業に見られる特性である。従来は行政代行機能とも呼ばれてきた側面である。沿岸漁業対策の重要政策に欠かせないものであり、政策の恩恵が組合員に行き渡る仕組を形成してきた。上から言われるだけでなく、下から言える、しくみが歴史的にみても必要とされてきた。

4つめは、組合員の帰属意識の発生源である。漁協は漁場管理団体として組合員に漁業行使権を付与しながら、組合員の営みを支える事業をしている。また、組合員は漁場利用者として同業組合員と利害関係があるゆえ、部会組織などに所属して役職員や同業組合員との対話そして納得が必要である。ここに漁協たる組合員の結合体の基盤がある。例え、新規参入者が民間企業であってもこの結合体に加入するという方式が合理的である。しかし、組合員が事業利用など漁協に果たす責任が重荷になってくると、事業体との距離をとったり、組合員と役職員との間には溝が形成されたりする。

以上の4特性を踏まえて漁協の未来を考察する。将来的には組合員の更なる減少と職員不足が続く。縮小再編下の経済原理に立ってば、漁協の広域合併、既存漁業・養殖業の集約、新規業種の開発、漁場利用の再編を進めていく必要性はより強くなり、また漁協事業としては産地機能など地元の多様なニーズに応えながらも地元の事業者と連携していくという方向性も強くなる。ただし、そのことは漁場や地域にある経営資源や需要を有効に活用していくという視点からであり、またそれが健全に発展するには協同組合原則に従って組合員の納得の下で進められるというのが前提条件である。これをどうやって企画立案し、コーディネイト・マネジメントするかが未来の課題となる。

【第2報告】JFグループの新たな運動方針とその課題


斎藤昇(JF全漁連信用・組織指導部次長)

前運動方針「水産業の成長産業化に向けた改革の実践~JFグループが漁業者とともに自ら拓く浜の未来~」(2020~2024年度)においては、その取組初年度である2020年度に改正漁業法・水産業協同組合法が施行されました。JFグループは漁業者である組合員の負託に応えるとともに、国民への水産物の安定供給という社会的使命を果たすべく、同方針のもとで様々な取組を実践するとともに、両法の趣旨も踏まえ資源管理のさらなる推進や組合員の所得向上に、組合員・役職員が一丸となり取り組んできました。その結果、県域の振り返りでは、相応に進捗しているとの評価が多くの県域でなされています。

一方で、足下では海洋環境の激変による漁業生産量の減少や東京電力福島第一原子力発電所のALPS処理水放出による一部の国・地域での輸入停止により様々な魚種に広く影響が及ぶなど、我々を取り巻く環境は大きく変化しています。JFグループは漁業者の所得向上や漁業・漁村地域の持続的発展に資するため、海洋環境の激変や、資材価格の上昇や人口減少・担い手不足など漁業だけでなく社会全体で共通する課題にも立ち向かい、これらを克服していかなければなりません。

このような中、JFグループでは2024年12月4日に東京都内で「JF全国代表者集会」を開催し、2025年度から向こう5カ年(~2029年度)にわたる運動方針「海洋環境の激変に立ち向かうJF自己改革の断行(参加と利用の結集による総合事業体としての強み発揮と漁業・漁村の持続的発展に貢献)」を決定しました。

JFの活動や運動は、水産物の供給を通じて日本の食料安全保障の一翼を担っているだけでなく、地方創生の牽引役として漁村地域における中核的な役割を発揮しています。「水産物の安定供給を通じた食料安全保障」「沿岸域の環境・生態系保全と適切な資源管理」「国境・沿岸域の監視機能や海難救助」のいわゆる「3つの防人」の機能は、漁村地域社会はもとより国民生活においても極めて重要で社会的・公共的な役割を果たすとともに、SDGs(持続可能な開発目標)にも貢献しています。

新運動方針の下でも、これらを中心にJFグループ全ての関係者がその重要性を改めて確認し従前以上に精力的に取り組むとともに、海洋環境が激変している今だからこそ「豊かな海づくり」の輪を広げ、国民と一体となって進めていくことが重要です。

3つめは、漁政活動と指導事業に見られる特性である。従来は行政代行機能とも呼ばれてきた側面である。沿岸漁業対策の重要政策に欠かせないものであり、政策の恩恵が組合員に行き渡る仕組を形成してきた。上から言われるだけでなく、下から言える、しくみが歴史的にみても必要とされてきた。

また、日本には世界に誇る魚食文化があり、インバウンド需要を増やし、漁村の交流人口を拡大させていくためのポテンシャルも有しています。このような機会を捉えつつ、魚食文化という宝を我々が次世代につないでいく責務も負っています。

これらを踏まえ、新運動方針では「漁業者を支える事業・経営改革の断行」「組織基盤の確立」「浜での中核的役割発揮による漁村・漁業への貢献」の3つの柱を掲げ、その柱ごとに取り組む事項を整理しています。JFにおける現状・課題は浜ごとに異なることから、その改革の方向性もJF・浜ごとに異なります。そのため、県域ごとに行動計画を策定し、県域の主体性や実態を踏まえた取組を実践することで、実効性をより高めていくこととしています。

JFが自己改革を断行するとともに、JFグループを取り巻く企業や様々な方々とも協働・連携して互いの価値を高め、漁業と漁村地域のさらなる発展に貢献していくべく、グループの総力を挙げて実践に取り組んでいく所存です。

*全漁連の新しい運動方針はwebでも公開されています。https://object-storage.tyo1.conoha.io/v1/nc_a1d807edab8b4dde9d9e321cea76c59c/jf/37bccad0962d86e7a3b182443865593b.pdf

【第3報告】漁協による産地卸売市場運営の実態と課題
―九州地方の沿岸漁業産地を事例にー


鈴木崇史(鹿児島大学)

我が国の水産物流通において、産地卸売市場は単なる流通機構の起点としての役割を超え、全国に点在する漁業者が自身の漁獲物を経済価値へと転換し、生計を立てるための基盤として、極めて重要な機能を果たしてきた。とりわけ地方における小規模な沿岸漁業にとって、漁協が開設・運営する産地卸売市場は、生産物の集荷・販売機能を担い、市場メカニズムを通じた公正な価格形成と収入の安定化を実現してきた。これらの産地卸売市場では、原則として競売(セリや入札)による価格形成が行われており、国内相場を反映した公正な価格付けが可能となっている。これは、特定の買受人による買い叩きを防止し、漁業者の利益を保護するとともに、消費者にとっても公正な価格で水産物が供給されるという公共的機能を発揮してきた点で極めて意義深い。

しかしながら、近年、こうした制度的枠組みが大きく揺らいでいる。地場の漁業生産力の低下、廃業などによる産地卸売市場の買参権を有する買受人数の減少、さらには漁協自体の経営基盤の脆弱化といった複合的要因により、競売を維持できず、相対取引へと移行する市場が増加している。相対取引では、価格決定過程における透明性や公正性の担保が困難であり、産地卸売市場が本来果たすべき公共的機能が形骸化しつつある状況が各地で見られている。

さらに、近年では漁業者自身が漁協の販売事業を経由せずに水産物を直売する動きも活発化しており、インターネット販売や飲食店への直接販売など、新たな販売経路が模索されている。また、漁協自身も従来の市場運営に留まらず、生産者直売施設等の運営を通じて、新たな販路の確保や収益の補填を図る取り組みが見られる。こうした動きは、これまで漁協が販売事業の一環としての産地卸売市場運営を通じて担ってきた公共的機能の発揮とは異なり、むしろ民間事業者の機能を取り込むことで生き残りを図っているように見える。

このような時代背景を踏まえたとき、改めて問われるのは、なぜ今なお漁協が産地卸売市場を運営すべきなのか、という点である。本報告では、この問いに答えるべく、漁協が運営する産地卸売市場における価格形成プロセスの実態を明らかにし、漁協による市場運営の意義とその課題を明らかにする。とりわけ本研究では、九州地方の沿岸漁業産地を対象とし、取扱魚種の構成、買受人との関係性、価格決定プロセスの維持といった観点から実態調査を行い、その結果を報告する。

【第4報告】漁協による漁場管理と経営改善
―宮城県漁協志津川支所戸倉出張所の取り組みー


阿部富士夫(元宮城県漁業協同組合志津川支所長)

宮城県漁協志津川支所戸倉出張所は県北東部の南三陸町に位置している。志津川湾では静穏な漁場を活かしてワカメ、カキ、ホタテガイ、ギンザケ等など多岐にわたる養殖業と漁船漁業が営まれている。2023年度の水揚げ金額は20億5000万円で、このうち9割を養殖業が占めており、品種別ではギンザケが最も多く、次いでマガキ、ワカメ、ホタテガイ、ホヤの順となっている。

東日本大震災から養殖を再開するにあたって、区画の大幅な見直しを図ることとなった。具体的には、①カキの養殖筏の間隔を拡大して施設台数を削減すること(GPSによる施設設置管理)、②ギンザケの生簀を沖合に移動すること、③ポイント割当制を導入して経営規模に合わせた施設配分をすることに取り組むこととなった。ポイント割当制は、カキ4点、ワカメ2点、ホタテ3点、ギンザケ6点と養殖種類ごとに施設1台あたりの点数をつけて、単身操業は40点、夫婦操業は46点、後継者あり夫婦は60点と漁家の労働力構成によって持ち点を決めて漁場を配分している。このような漁場管理の結果、カキ養殖においては震災前と比較して1経営体あたりの生産量は約2倍に、生産金額は約1.5倍に増加しており、経費は4割以上も削減されている。このような経営改善によって漁業に参入する後継者が増加しており、カキ部会の就業者年齢構成は30代以下が約3割を占めるに至っている。

このような漁場利用の大幅な見直しを図ることができたのは、「がんばる養殖復興支援事業」に取り組んだことが大きかった。この事業には、カキ・ワカメ・ホタテ養殖96名とギンザケ養殖6名の計102名が参加し、話し合いを重ねて共同作業に取り組んだ。これによって協同の意識が育まれて、将来にわたって浜の存続を見据えた「後継者が安心できる持続可能な養殖業」を行えるような漁場を作ろうという機運が高まった。そして、このことは漁場管理に留まらず、2016年にはカキ養殖が国際養殖認証(ASC認証)を取得し、「南三陸戸倉っこかき」と命名したブランドカキの販売促進に取り組むことにも結びついていった。このカキ部会の一連の取り組みは2018年度の全国青年・女性漁業者交流大会で農林水産大臣賞、2019年度の農林水産祭で天皇杯を受賞している。

ギンザケ養殖においては「がんばる養殖復興支援事業」によって協業化が進められ、無加水給餌への転換、作業効率を配慮した生簀配置による省コスト化、生産物の高品質化に取り組んでおり、生産されるギンザケは「個人の魚」から「戸倉の魚」へと意識が変化している。養殖業者6名が話し合い(週1回の実施)を重ねて、コスト削減と生産管理に取り組み、価格向上と生産金額の向上を実現している。

【第5報告】漁協の今日的役割 ―漁協の総合事業体としての可能性―


工藤貴史(東京海洋大学)

漁協は今日の漁業・漁村を維持・再生させることができるのか。これを問いとして、本報告は漁協の今日的役割について検討する。その際に、全漁連の新しい運動方針(2025-2029年度)の副題「参加と利用の結集による総合事業体としての強み発揮と漁業・漁村の持続的発展への貢献」を踏まえて、漁協の総合事業体としての可能性についても検討することとしたい。

漁協の役割は、1)水協法・漁業法等の法制度、2)組合員である漁業者集団の規模・性格、3)地域漁業・産地市場の特質、4)協同組合という組織特性、によって規定されており、個別の漁協によって一様ではない。とはいえ、漁協は漁業の産業的特質を反映して、内部に存在する問題(漁場利用競合問題)を漁場管理機能によって、外部との間に存在する問題(市場問題・環境問題等)を経済事業や組織活動によって解決をはかり、個別最適(個別経営の維持発展)と全体最適(地域漁業の維持発展)の相互実現を図ろうとするといった一般的特性を持っており、その結果として、水産物の安定供給が実現されるといった社会的役割も担っている。

しかし、近年においては漁業者の高齢化と減少が顕著となり、漁業者数の過多を起因とする漁場利用競合問題は解消される方向に進んでいる。また漁業・養殖業の生産量が減少するなかで産地の水産業者の経営は悪化しており、その結果、産地機能(水揚げ処理・価格形成・集分荷・加工保管販売・需給調整)が脆弱化している。このように今日においては、漁協が内外の利害対立を「調整」する機能を発揮するだけでは漁業・漁村を維持発展することは困難になってきたと考えられる。

このような状況を反映して、漁協の役割についての共通認識が薄れつつあり、その評価が揺らいでいるように思われる。2018年からの「水産政策の改革」においては、漁業法改正によって漁協の漁場管理機能は弱められる方向にあり、成長産業化の推進主体としての漁協の役割について明確に示されてはいない。また、今日において漁協の問題は、地域漁業の縮小にともなう漁協経営問題に矮小化されてしまい、合併推進がほぼ唯一の処方箋となっている。

では、今日における漁業・漁村の維持・再生において漁協は不要かといえばそうではなく、むしろ重要性は高まっていると考えられる。漁業経営体数が減少するなかで地域の漁業生産を維持するためには、残存経営体の漁業生産力を発展させて漁場を総合的に利用する必要がある。このように地域漁業全体をマネジメントして持続可能な漁業経営を構築することができるのは漁協において他にないと考えられる。また、産地機能が脆弱化するなかで、水産物の価値実現を維持するためには漁協の経済事業の多角化や他の経済主体との連携によって産地機能を維持あるいは再編していくことが求められていると考えられる。

さらに、人口が減少する漁村では行政や民間事業者から生活関連サービス(交通・教育・買い物・医療・福祉等)が十分に供給されなくなることが不可避であり、組合員の生活環境を維持するために、あらためて漁協の経済事業(生活関連事業・福祉事業)や組織活動(相互扶助による生活支援)への期待が高まっていく可能性が高い。本報告では、この点について長崎県平戸市生月漁協を事例として、生活関連事業(スーパーマーケットと老人ホームの経営)の運営とそれを可能とする事業構造を明らかにして、人口減少社会における漁協の総合事業体としてのポテンシャルについて考察したい。


主な引用文献
加瀬和俊・常清秀・工藤貴史・尾中謙治(2018)『漁協自営漁業の実態と可能性に関する調査』総研レポート29農金No.1.(https://www.nochuri.co.jp/skrepo/pdf/sr20180410.pdf
加瀬和俊・常清秀・工藤貴史・尾中謙治(2019)『漁協における買取販売に関する実態調査』総研レポート30農金No.9.(https://www.nochuri.co.jp/skrepo/pdf/sr20190322-1.pdf
加瀬和俊・常清秀・工藤貴史・尾中謙治(2020)『漁協における加工事業に関する実態調査』総研レポート2019基礎研No.3.(https://www.nochuri.co.jp/skrepo/pdf/sr20200401.pdf
工藤貴史(2025)「地域漁業の成長産業化の方向性と課題」『水産科学と水産政策−現場と政策の乖離を埋めるために必要な研究とは』e-水産学シリーズ8、恒星社厚生閣.

【ミニシンポジウム】

内水面漁協が今すぐにできること


企画・司会・コーディネーター:櫻井政和(水産庁)

■日時:6月8日(日)14:00~16:30
■会場:東京海洋大学品川キャンパス
■プログラム
 開会(趣旨説明)   櫻井政和 (水産庁)

 報告(いずれも仮題)
1.中村 智幸(水産研究・教育機構)        「内水面漁協の特性と現下の状況・課題」
2.村瀬 和典(郡上漁業協同組合)         「岐阜県郡上漁協の漁場管理と今日的課題」
3.加賀 豊仁(栃木県漁業協同組合連合会)     「栃木県漁連の『やったらいいのに会議』の取り組み」
4.川村幸ノ介(東京海洋大学)           「内水面漁協における電子遊漁券導入の効果と課題」
5.中川 拓郎(神奈川県水産技術センター)     「神奈川県内の河川におけるアユルアー導入の効果」
  コメント 瀬川貴之 ((一社)ClearWaterProject)・工藤貴史 (東京海洋大学)

  総合討論

■企画の趣旨

第70回大会(2023年)のミニシンポジウム「内水面における漁場管理の展望と課題」において、内水面の漁場管理に関する課題と対応方策を整理し、主に政策的な対応について議論を行った。今回のミニシンポジウムでは、その後の議論の進展や状況の変化、また、本年は国際協同組合年であり、大会シンポジウムにおいて海面の系統組織が取り上げられることも踏まえ、内水面漁協等による実践的な対応について議論する。

内水面の系統組織が持つ特性等を確認した後、現場での具体的な取り組みについて報告いただく。総合討論では、報告のあった事例を多角的に分析・評価することに加え、「現場実態に即して考える」観点から、内水面漁協・漁連から見た時の「取り組みやすさ」や「効率的な情報共有、横展開」を意識して議論する予定としている。

内水面の現場が抱える課題は、構造的な要素に起因するものも多いが、上記の議論を通じて内水面の系統組織による持続的な活動を可能とする途を探りたい。

【第1報告】内水面漁協の特性と現下の状況


中村智幸(水産研究・教育機構水産技術研究所)

内水面(河川湖沼)における水産資源の増殖や管理、漁場の管理、漁業や遊漁の管理は、欧米諸国では国や州等の公的機関により行われているが、日本では内水面の漁業権である第五種共同漁業権が設定された漁場(漁業権漁場)については漁業協同組合や漁業協同組合連合会(以降、漁協)により行われている。漁業法の趣旨に従い、都道府県知事は増殖に適した水面には漁業権を設定するので、日本では「増殖に適した水面」≒(ニアリーイコール)「漁業や遊漁に適した水面」の漁業や遊漁は漁協により管理されている。漁業法の規定により、知事は漁協に免許した漁業権を取り消さなければならない場合があるが、漁協は一定の水面において特定の漁業を一定の期間排他的に営む権利である漁業権を免許され、独自の法人格を有して活動する。このように日本の内水面の水産資源や漁場、漁業、遊漁に対する漁協の役割や権限は大きい。

2024年の全国の漁協数は海面(沿海)852漁協、内水面774漁協であり、内水面漁協は少なくない。また、2023年の正組合員数(個人の正組合員)は海面103,155人、内水面213,182人であり、内水面のほうが多い。内水面、海面に関係なく、漁協の目的は水産業協同組合法に「組合は、その行う事業によってその組合員又は会員のために直接の奉仕をすることを目的とする。」と規定され、水産庁が示す漁協の模範定款例の第一条に「この組合は、組合員が協同して経済活動を行い、漁業の生産能率を上げ、もって組合員の経済的社会的地位を高めることを目的とする。」と記されている。このように、漁協は組合員のために存在する(自然環境の保護団体ではない)。

海面の漁協の組合員は漁業者か漁業従事者である。漁業者とは営利目的で水産動植物を採捕または養殖する者であり、漁業従事者とは漁業者のために水産動植物を採捕または養殖する者である。内水面の組合員にはそれらの他にいわゆる採捕者や増殖者などがいる。採捕者とは自家消費やレクリエーション等のために水産動植物を採捕する者であり、増殖者とは採捕や養殖を行わず水産動植物を増殖する者である。内水面漁協の組合員のうち約95%は採捕者である。採捕者は、いわば組合員である地元の釣り人である。ちなみに、組合員以外の採捕者は遊漁者である。

漁業の本来機能は食料としての水産物の供給であり、内水面漁協も漁協や組合員の活動を通してその機能を担っている。また、内水面漁業には本来機能の他におもに次のような多面的機能がある:自然環境や生態系の保全の機能、文化の創造・継承の機能、水難救助や防災の機能、親水レクレーションの促進の機能、教育や啓発の機能。内水面漁協はこれらの機能をすでに果たしていたり、今後果たしたりする可能性を有している。

内水面漁協の活動は細分化すると約50項目に及ぶが、食料としての水産物の供給、言い換えれば漁業の活動を行っている漁協は全体の10%未満である。その一方で、ほとんどの漁協が上記の親水レクレーションのひとつである遊漁の管理や自然環境のひとつである水辺環境や水辺の生態系の保全を行っている。内水面漁協は漁業のための団体というより、遊漁の管理団体であり、水辺環境の保全団体と言った方が実際には適当である。

内水面漁協について、「既得権を主張する団体」、「川や湖を独占する団体」、「自分たちのことばかり考えている団体」等のマイナスのイメージを持っている人がいる一方で、日本の河川湖沼で内水面漁協が活動していることを知っている人は国民の約60%であり、国民の約50%の人々が内水面漁協はこれからもあったほうが良いと考えている。内水面漁協に対する河川湖沼の環境保全への国民の期待は大きい。しかし、内水面漁協では組合員の減少や高齢化、収入の減少、人材不足等が進行しており、活動の活性低下が懸念される。

【第2報告】郡上漁協の概況と取り組み


村瀬和典(郡上漁業協同組合)

郡上漁業協同組合の事業概況及び将来を見据えた取り組みについて報告する。

当組合は内水面漁協として岐阜県より免許を得て、木曽川水系長良川水系の最上流部(郡上市内)を管轄しており、組合員の福利厚生に資することを目的とし、1年を通じて漁業に携わる活動を実施している。組合員数は4,448人(令和7年度期首)であるが、高齢化による漁業廃業及び新規参入者の減少により毎年200~250人減少している。事業取扱高は約2億4千万円(令和6年度)で指導事業、販売事業、購買事業を展開している。

流域漁場で漁獲される魚類の評価は市場価格においても極めて高いものとなっており、中でもアユはブランド「郡上鮎」として、地域の重要な産業資源として確たる地位を築いている。今後も更なる流域環境の保全を図り、生産性並びに品質の向上に努めていく。

組合事業収入のうち、大きな割合を占める遊漁料収入を左右するものは漁獲状況である。アユの漁獲を左右する要因の一つに天然アユの遡上状況がある。安定した天然資源を確保するために、再生産への寄与が期待できる海産系F1種苗を中心とした放流につとめ、長良川流域7漁協(長良川漁協、長良川中央漁協、西濃水産漁協、板取上流漁協、津保川漁協、美山漁協、郡上漁協)共同でアユ人工孵化放流事業を行っている。自然環境において異常気象と言われる現象が恒常的になりつつあり、気候変動の影響で局地豪雨及び河川水温の著しい上昇が見られ、天然アユの遡上時期や成熟の遅れや小型化が問題となっており、成長が良いとされる4月上旬までの早期に河口を遡上した天然アユを親魚とした「早期遡上群アユ種苗」を試験放流している。

水源涵養を目的とした広葉樹林の必要性に鑑み、平成22年より継続して源流部への広葉樹を中心とした苗木を植樹すると共に、育樹面にも着目しニホンジカの食害を防止するネット柵を設置している。山林が多数を占める郡上市において、実施面積は広くは無いが、川の漁協が山に手をかけることによる、山の豊かさが川の豊かさにつながるという理念を浸透させたい思いから実施している。

漁場管理について、河川工事の際は汚濁水流出防止について強く要望し、行政・業者・地域・漁協でより良い川づくりについて協議し、漁場整備に取り組んでいる。全国的に食害が問題になっているカワウ対策については漁協役職員が猟銃を所持し、地区猟友会と共同で駆除隊を編成し周年駆除にあたっている。また冬季に飛来する魚食性大型カモ類のカワアイサも大きな食害をもたらすため対処捕獲許可を得て食害状況を調査し、狩猟鳥獣化に向けて関係機関へ働きかけをしている。事業規模でのラフティングやカヌー等の水上レジャーについて、漁業者とのトラブルが多発しており、漁業に与える影響は多大である。可能であれば排斥していきたいが、公共水面の自由利用の原則から現実的に不可能であり、共存共営の方法として、漁協とラフティング業者間で運行時間や飛び込み場所について協定、協議を続けている。令和5年度にコクチバスの流入が発覚し、完全駆除を目指し行政の助力を得ながら駆除活動を実施している。電力売買自由化に伴う自然再生エネルギー開発が盛んとなり、小水力発電所建設が進む中、河川取水は漁場の縮減につながる恐れがあるため、新規取水施設工事には同意しない方針としている。

人手不足による業務や流通への支障、漁業者・遊漁者の高齢化により全体の約5割が70歳以上になっている中、漁業後継者の育成並びに新規参入者の増大を目指し、教育現場における漁業や自然科学授業の講師として役職員を派遣し、将来の漁業を担う人材の育成に努めている。

いずれにせよ内水面漁業を取り巻く情勢は厳しい中にあるが、漁場の有効活用と適切な漁場管理によって、漁業をはじめとする水産業の振興を図り、広く地域社会の発展に寄与していきたいと考えている。

【第3報告】栃木県漁連の「やったらいいのに協議会」の取り組み
―みんなでやるぞ内水面漁業活性化事業―


加賀 豊仁(栃木県漁業協同組合連合会)

1 みんなでやるぞ内水面漁業活性化事業

令和6年度に予算化された内水面漁場管理高度化に向けた連携体制構築支援事業(国庫補助事業)は、令和5年度までの「やるぞ内水面漁業活性化事業」で得られた成果を進化、横展開させるため、コーディネーターを配置し効率的な漁場管理や内水面漁業活性化の方法の検討・実行を推進するもの。

2 栃木県漁連が事業に取り組んだ目的

漁場管理の高度化や新たな集客策の導入等により組合員や遊漁者を増大させ、未来まで継続できる漁協経営を確立するとともに、貴重な地域資源である「川釣り」を核にした地域経済の活性化にも貢献することを目的とした。

3 解決すべき課題と今回の取組み

漁協経営安定化のための釣り人数の復元、新たな利用者の確保と、これを実現する 手段である釣り人との連携やゾーニング管理の拡大、漁場管理の高度化、情報発信の強化が課題であり、コーディネーターとともに以下の事業に取組んだ。

(1)ゾーニングや釣り人と連携した漁場管理

すべての河川湖沼漁協にLINE WORKSを導入し情報交換、情報共有の効率化を図るとともに、アユルアーの導入を促進するため、先進事例調査や講習会を開催した。

(2)ICT遊漁券システムを活用した漁場管理の高度化、内水面漁業の活性化

すべての河川湖沼漁協にLINE WORKSを導入し情報交換、情報共有の効率化を図るとともに、アユルアーの導入を促進するため、先進事例調査や講習会を開催した。

① ICT遊漁券の利用者属性や行動履歴の数値化及び可視化を進めるとともに、全ての漁業権免許区域や禁漁区、橋梁名等を図示した釣り人向けのデジタルマップを作成しHPにより提供した。

② キャスティングアユルアー及びテンカラ釣用具のレンタルを行うとともに、ガイドサービスの導入に向けた検討を行った。

③ 漁協の新たな収入源確保を目的に、漁場管理等活動体験の企業等への販売可能性を検討するためヤマメ発眼卵放流及び産卵場造成による体験を試行した。

たい。

(3)やったらいいのに協議会

内水面漁業に関心のある大学生から漁協活動や漁場運営についての意見や提言をもらい今後の活動への新しい発想の導入、実施にあたっての人材の確保を図るとともに、新たな組合員確保につなげるため「やったらいいのに協議会」を開催した。

内水面漁業をテーマに卒論研究している東京海洋大学3名に加え、宇都宮大学、国際医療福祉大学各1名、帝京大学3名の参加を得て3回の協議会を開催した。

内水面漁業の現状や課題のレクチャーに加え、漁協役職員とのワークショップ「とちぎの川を元気にするためには」を開催し、「アユ」と「若者(youth)」を繋げる「アユースプロジェクト」の提案や、漁場管理への協力、インバウンド対応への協力等、さまざまな分野での協力が提案された。

今後、若い力、新鮮な発想を生かした「改善」を進めていきたい。

【第4報告】内水面漁協における電子遊漁券導入の効果と課題


川村幸ノ介(東京海洋大学)

日本の内水面漁場は,都道府県知事から第五種共同漁業権が免許された内水面漁協によって管理されており,内水面漁協には水産動植物の増殖行為が義務付けられている。しかし近年,組合員や遊漁者の減少等による内水面漁協の漁場管理機能の低下や経営状況の悪化が問題視されている。この問題を解決するために電子遊漁券を導入する内水面漁協が増加している。令和元年度からは,水産庁の補助事業(やるぞ内水面漁業活性化事業)によって内水面漁協に対して電子遊漁券の導入が支援されている。しかし,これまで電子遊漁券の効果に関する研究はほとんど行われていない。そこで本研究では内水面漁協における電子遊漁券の導入実態と効果について明らかにし,今後の課題について検討することを目的とする。

本報告では国内の内水面漁協の電子遊漁券導入実態について水産庁が令和5年度に全国787漁協を対象に実施した内水面漁協を対象とするアンケート調査から把握した。次に内水面漁協における電子遊漁券販売実績については「やるぞ内水面漁業活性化事業」採択団体の報告資料から整理した。さらに現場における電子遊漁券の導入の効果と課題について把握するために,郡上漁協(買取事業),長良川漁協(アユルアー導入),米代川水系サクラマス協議会(監視業務の効率化),青森県内水面漁業協同組合連合会(県内共通券導入),岩木川漁協(小規模漁協)の5団体への現地調査を実施した。

アンケート調査の結果,回答が得られた534漁協のうち,電子遊漁券を導入している割合は45.9%であった。このうち電子遊漁券を導入して良かった点として①遊漁料収入の増加(50.2%),②宣伝効果(35.1%),③遊漁者のデータ活用が可能(25.3%),④無券者・密漁者の減少(24.5%),⑤漁協の事務作業減少(20.0%),⑥漁場監視の効率化(17.1%),⑦遊漁者からの評価向上が挙げられた。

電子遊漁券販売実績については「やるぞ内水面漁業活性化事業」に採択され,電子遊漁券導入を支援された内水面漁協(令和3年度41団体)において、電子遊漁券導入前の令和2年度における遊漁券販売金額合計は3.2億円であったが,電子遊漁券導入後の令和5年度における遊漁券販売金額合計3.7億円であり、そのうち電子遊漁券の販売金額は約3,000万円であった。さらに魚種別に電子遊漁券の割合を比較すると,アユよりも渓流魚や雑魚等を含むその他魚種の方が電子遊漁券の割合が高い傾向があった。

現地調査では,電子遊漁券導入の効果として遊漁者の利便性向上等による遊漁料収入の増加,無券者・密漁者の減少,監視業務の効率化,漁協の事務作業の負担軽減等が明らかになった。また,アユの遊漁者は,おとりアユを販売店で購入する際に一緒に遊漁券を購入するケースが多いので、その他の魚種と比較して電子遊漁券の割合が低くなっていることが明らかになった。

電子遊漁券は,遊漁者にとって利便性が高く,非接触型の料金徴収システムであることから,コロナ禍(令和2年度から令和5年度)において利用者数・導入漁協数とも増加してきた。電子遊漁券は販売枚数の増加だけでなく、漁場管理の効率化等の効果も発揮していた。電子遊漁券の今後の課題としては,デジタル化に対応できる人材の確保や電子遊漁券を情報ツールや電子決済ツールとしての機能を充実させて漁場管理のさらなる効率化や地域経済への波及効果を発揮させることが挙げられる。

【第5報告】神奈川県内の河川におけるアユルアー導入の効果


中川 拓朗(神奈川県水産技術センター)

県内の内水面をとりまく環境は厳しく、気候変動や環境変化に伴う漁場の悪化、カワウや外来魚による食害、高齢化等による組合員及び遊漁者の減少と賦課金や遊漁料収入の減少により、これまでのような規模での事業継続が困難になりつつあり、これらを打開するためさらなる遊漁者を増やす取り組みが求められている。

一方で、近年の全国的な内水面遊漁者の傾向は、ヤマメやイワナ、ニジマス等の渓流魚の人気が高く上位3位までを占め、アユは次いで4位と渓流魚の3分の1程度の釣り人数であるものの、潜在釣り人(釣りをしたいが出来なかった人)の数はアユが最も多いことが分かっている(中村 2020)。

また、天然遡上に恵まれた神奈川県では古くからアユの利活用がされており、遡上の多い相模川はかつて「鮎河」と呼ばれ江戸時代には将軍家への献上品として相模川のアユが納められていた。近年でも漁業権者による増殖事業や漁業、遊漁はもちろん、内水面漁連による遊漁者からの買い取り事業や加工品の販売など、漁連・漁協が中心となった様々な取り組みが行われており、アユは内水面漁業、遊漁の重要な対象魚種となっている。

本県におけるアユ漁は、一部の漁場でコロガシ釣りや毛バリ釣り、投網等が行われているが、最も主流なのは友釣りである。一般に友釣りは高価な釣竿や川へ入るタイツなど特殊な装備が必要で高額な初期投資が必要なことや、オトリとして生きたアユを使う必要があること等から、初心者が始めるにはハードルが高いと言われており、友釣りの遊漁者は減少傾向にある。

このような中、近年は友釣りのオトリの代わりにルアーを使ってアユを釣る「アユルアー」が安価で手軽に始められることから注目を集めており、相模川では令和元年6月から、酒匂川では令和5年6月から、多摩川では令和5年9月から、早川では令和7年6月から遊漁規則を変更し、ルアーを使用したアユ釣りを解禁することで若年層を中心に遊漁者の増加を図っている。

本報告では、県内主要河川での事例を中心に、アユルアーの導入が遊漁券の販売数に与えた影響や、ヒアリング調査等により聞き取った定性的な影響について紹介する。

遊漁券販売数については、年釣券の数は各河川ともアユルアーの導入前後で大きなトレンドの変化は見られず減少傾向であったが、日釣券は年によって増減はあるもののいずれも増加傾向にあった。

また、相模川のアユルアーの主要漁場である昭和橋付近の遊漁券販売所の販売数が導入前後で数倍~十倍になるなど局所的な販売数の増加が認められたほか、令和6年度には酒匂川の小田原地区においてはアユルアーの遊漁者が7割を占めるなど各河川のアユ遊漁に大きな影響を与えている。

ヒアリング調査では、アユルアーから友釣りへとシフトしていく遊漁者が散見されることや、高齢で川に入れなくなった友釣り師が護岸からのアユルアーを始める事例があるなど、遊漁者数の増加にプラスの影響を与えていることが明らかになった。

さらに、漁協と地元釣具店やメーカーが共催でアユルアー講習会を開催し、釣果アップだけでなくマナー向上についても周知を行い、業界が一丸となってアユルアーが一過性のブームとならないよう盛り上げを図っている。

【一般報告】

■6月8日(日)10:00~12:00
■報告者あたり 報告15分 質疑応答5分(合計20分)
 (当初、報告20分としていましたが、報告者多数のため15分とさせていただきます。ご了解ください。)

■報告タイトルと報告者
第1会場(大講義室)

10:00~10:20 Structure, Conduct, and Performance of Usipa Fish Marketing in Malawi
                    Mussa Happy(鹿児島大学大学院連合農学研究科)・鳥居享司(鹿児島大学)

10:20~10:40 日本産水産物の台湾への輸出動向とその特徴―ホタテガイに注目して―
                    陳韋仲(北海道大学水産科学院)・佐々木貴文(北海道大学水産科学研究院)

10:40~11:00 ホタテガイ養殖における労働力確保の現状
                    今川 恵(水産研究・教育機構 水産技術研究所)

11:00~11:20 北海道内浦湾沿岸漁村における漁家の交際・出生・後継に関する意識調査
                    西崎真弘(北海道大学水産科学院)・佐々木貴文(北海道大学水産科学研究院)

11:20~11:40 北海道稚内市における沖合底びき網漁業の操業実態と経営課題」
                    森下瑛斗(北海道大学水産科学院)・佐々木貴文(北海道大学水産科学研究院)

11:40~12:00 イカナゴ資源量の低下が地域漁業経営体に及ぼす影響
           ―兵庫県坊勢と淡路の漁業者を事例としてー
                    原弥優(鹿児島大学大学院農林水産学研究科)・藤本麻里子(鹿児島大学)


第2会場(講義棟22番教室)

10:00~10:20 明治中期の北海道コンブ漁村における漁民と商人 ー 浜中の事例ー
                    小岩信竹(元、東京海洋大学)

10:20~10:40 スルメイカ不漁下におけるイカ加工業者の経営対応
                    刀禰一幸(水産大学校)・佐野雅昭・久賀みず保(鹿児島大学水産学部)

10:40~11:00 漁協のFacebook運用
                    奥出裕介(株式会社水土舎水産振興部)

11:00~11:20    カナダにおけるCo-managementの評価ー日本との比較
                    東村玲子(福井県立大学)

11:20~11:40 「遊漁ライセンス制」という言葉 ~米国海面での制度適用をめぐって~
                    森川綾子・櫻井政和(水産庁)

11:40~12:00  内水面サケ採捕禁止条項の再検討と遊漁による資源の確保活用の可能性について
                    高橋満彦(富山大学)、佐藤栄治(富山大学)田子泰彦(庄川沿岸漁業協同組合連合会)


第1会場(大講義室)

10:00~10:20

Structure, Conduct, and Performance of Usipa Fish Marketing in Malawi

Mussa Happy(鹿児島大学大学院連合農学研究科)・鳥居享司(鹿児島大学)

The fisheries sector plays a pivotal role in Malawi’s economy and food security, contributing approximately 70% of the country's animal protein intake. Among the various fish species, Usipa (Engraulicypris sardella) is of significant importance due to its affordability, availability, and economic relevance, particularly to low-income households. Despite its importance, the marketing of Usipa remains largely informal and inefficient, with limited empirical evidence to guide policy and improve market outcomes. This study evaluates the structure, conduct, and performance (SCP) of Usipa fish marketing in Malawi to inform strategic interventions for sectoral development.

The study draws on primary data collected from Usipa value chain actors including fishers, processors, wholesalers, and retailers across six districts: three fishing communities (Mangochi, Salima, Nkhata Bay) and three urban markets (Blantyre, Lilongwe, Mzuzu). Using both qualitative and quantitative methods, the study analyses market structure using the Gini coefficient and concentration ratios (CR₄), market conduct via exchange functions and procurement behaviors, and performance using gross margins, net income, marketing margins, and marketing efficiency.

Findings show a Gini coefficient of 0.47, indicating moderate income inequality among actors, and a CR₄ of 41.2%, reflecting a moderately oligopolistic market structure. Conduct analysis reveals the growing influence of intermediaries (locally known as andagwira) who dictate terms of trade, levy informal charges, and control access to urban markets—practices not governed by formal policy. Performance analysis indicates low net margins for small-scale actors, with marketing efficiencies below 1 for most participants, signalling a structurally weak and cost-inefficient system.

The paper concludes that despite the Usipa sector’s potential to alleviate poverty and enhance nutrition, systemic barriers such as weak regulation, and inequitable market practices hinder its performance. The study recommends promoting fish marketing cooperatives, strengthening regulatory frameworks, and investing in transportation infrastructure. These interventions could improve efficiency, ensure equitable value distribution, and enhance the sector’s contribution to Malawi’s socio-economic development.

Keywords: Usipa, Fish Marketing, SCP framework, Malawi



第1会場(大講義室)

10:20~10:40

日本産水産物の台湾への輸出動向とその特徴
―ホタテガイに注目して―

陳韋仲(北海道大学水産科学院)・佐々木貴文(北海道大学水産科学研究院)

日本では人口減少と高齢化が進行しており、今後、国内の水産物市場は縮小すると見込まれている。このような状況のなかで、日本政府は「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略(令和5年12月改訂)」を公表し、水産物の輸出拡大を志向するようになっている。

経済成長が続き、消費需要が強い台湾にも、輸出拡大目標が設定されている。2023年、日本から台湾への水産物の輸出額は330億円で、台湾からの輸入額は537億円となっており、輸入超過が続いている。しかしながら輸出額は、2013年時点の151億円から約2倍に増加しており、大きく伸びている。

台湾に対する輸出拡大の背景には、日本産ホタテガイの輸出拡大が関係している。冷凍品を中心とする日本産ホタテガイの輸出量は、2015年の1,471トンから2024年には4,485トンへと3倍に増加した。輸出額も約140億円(2024年)に達し、台湾への水産物輸出総額の3分の1を占めた。日本産ホタテガイの台湾向け輸出額は大きく、ホタテガイの海外輸出総額の約2割を占めており、台湾市場の重要性がわかる。

そこで本研究では、日本から台湾への水産物輸出における品目構成の変遷、輸出品目の中核をなすホタテガイ輸出の実態とその特徴、台湾市場における消費動向、さらに台湾市場での他国産との競合関係等を明らかにすることを目的とする。

本研究では、日本財務省の『貿易統計』および台湾漁業署の『漁業統計』等の一次資料を用いて貿易総額および総量の推移を分析するとともに、産地市場等の公的データも用いて分析する。また、流通実態については、日台の市場関係者や流通業者、北海道漁業協同組合連合会等へのヒアリング調査を実施し、貿易構造を解明する。

分析の結果、本研究では以下の3点を明らかにした。

第1に、台湾向けに輸出が拡大している日本産ホタテガイは、主に冷凍品(玉冷)であり、加工用原料ではなく、外食産業向けの最終消費形態に近い製品として輸出されていることが明らかになった。輸出量は2021年の2,716トンから年々増加し、2024年には3,480トンを超えた。輸出拡大は漁業者の収入の安定化につながり、さらに加工度の高い玉冷の輸出拡大が日本国内の水産加工業の高付加価値化に貢献していた。

第2に、台湾における日本産ホタテガイの輸出拡大の背景には、2000年代以降に進んだホタテガイに対する関税引き下げ措置や、台湾の経済成長に伴ったホタテガイ消費の拡大があったことが明らかとなった。冷凍ホタテガイに対する関税は、1989年の30%から2024年には8%へと大幅に引き下げられた。その一方で、台湾の一人あたり国民所得や平均世帯可処分所得の増加といった消費能力の向上が、外食中心に消費される玉冷の需要を増加させていた。

第3に、台湾市場におけるホタテガイ(干し貝柱を除く)の輸入額が約1億ドルであるなか、日本産が約8割(0.76億ドル)を占めて主要な位置にあり、日本産への高い評価が明らかとなった。また、日本産ホタテガイの輸入単価は21.04ドル/kgと高く、残りの2割(0.16億ドル)を占めている中国産の6.18ドル/kgの約3.5倍(2023年)に達していることも明らかとなった。これは、日本産ホタテガイが品質面において市場で高く評価されており、他国産品に対する代替性が低いという特徴を有していることを示している。

台湾における日本産ホタテガイは、関税引き下げ措置や経済成長により需要が安定して拡大している。高加工度で単価の高い玉冷の輸出拡大は、外需を取り込むことができた日本国内の産地に恩恵をもたらしている。台湾経済が成長を続ける限り、台湾市場における日本産ホタテガイの需要は安定的に推移すると見込まれ、良好な日台関係を基礎とした輸出戦略の展開が期待されている。



10:40~11:00

ホタテガイ養殖における労働力確保の現状

今川 恵(水産研究・教育機構 水産技術研究所)

ホタテガイ養殖は、稚貝を海中につるして1~3年育成したのち出荷する養殖業であり、北海道の噴火湾地区と青森県の陸奥湾地区が中心的産地である。ホタテガイはそれぞれの産地によって出荷形態が異なり市場で棲み分けが形成されていることなどから、比較的安定した産地形成を図ってきたとされている1)。その一方で生産サイドに目を転じると、近年は後継者や雇用労働力が確保できない経営体が増加している。ホタテガイ養殖の生産基盤は家族を中心とした小規模な個人経営体であり、耳吊りなどの陸上作業は漁家世帯員(妻など)の従事や地域内の季節的雇用により担われてきた。しかし、漁業・養殖業の長期的不況、地域労働市場全体における人口減少や高齢化などの要因により、ホタテガイ養殖業を就労先として選択する労働力は減少し続けているのである。また、近年のホタテガイ漁業に関する社会経済学的研究は消費サイドからの分析が主で、生産構造や労働力と言った生産サイドからの研究は少なく留まっている。そこで今回は、センサス等の統計を利用してホタテガイ養殖の現状を俯瞰するとともに、中心的生産地の1つである青森県平内町における労働力確保の現状(養殖経営や雇用労働力・後継者確保の現状、具体的にどのような労働作業で人員不足なのか、地区の漁場環境や施設数の多寡によって差はあるのか否か)を実態調査により明らかにした。結果を要約すると、以下のようになる。

・漁業センサス・漁業経営統計調査によれば、2013年以降の魚価高騰により収益が増加し一時的に経営体の増加傾向が見られたが、一貫して減少傾向にある。また、就業者の減少や高齢化も進行しており、調査対象の経営体の6割超では後継者が確保されていない。

・全体的な減少基調の中で養殖面積・販売金額ともに上位階層の経営体の割合が増加しており、魚類養殖と似た傾向を示している。しかし、家族を基盤とした個人経営体が全体の90%以上を占める構造は依然として変化していない。

・中心的生産地の1つである青森県平内町では、転出超過による青壮年人口の減少、高齢化、世帯員数の減少、漁業外産業における賃金の上昇により、これまでのように地域内雇用や青森市からの通勤雇用を確保することが難しくなっている。

・漁業就業者の高齢化は深刻であり、後継者が確保できない経営体も多い。労働負荷が高く高齢労働力では対応しにくい耳吊りやカゴ洗浄などにおいて人手が不足している。

・その一方で、経営体の減少に伴って1経営体あたりの養殖施設数は増加している。また、近年は高水温等による大量斃死が問題化しており、ホタテガイの垂下量を増加させてリスク対応を図る経営体では、年間通じた雇用労働力が必要となっていると考えられる。

・雇用労働力不足の状況は、支所ごとに異なる。前浜漁場の養殖生産への適性や、施設配分・使用状況、市街地からの距離などの要因に左右されている。

※青森県平内町の調査データについては、「令和6年度漁業主体のマルチワークモデル創出支援等業務委託」で得られたものを使用した。

1) 水産物安定供給推進機構(2017)平成 28 年度需給変動調整事業関係調査事業



11:00~11:20 

北海道内浦湾沿岸漁村における漁家の交際・出生・後継に関する意識調査

西崎真弘(北海道大学水産科学院)・佐々木貴文(北海道大学水産科学研究院)

2023年の日本の総人口に占める65歳以上の割合(高齢化率)は、29.1%を記録した。1970年は7.1%であったため、この50年間で高齢化率は22ポイント上昇したことになる。国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口(令和5年推計)」によると、2070年には高齢化率は38.7%まで上昇すると推計されている(出生中位・死亡中位仮定で推計)。

この日本全体での少子高齢化は、漁業にも大きな影響を与えている。2023年の漁業就業者の高齢化率は39.2%、平均年齢は62歳に達した一方で、漁業就業者数は一貫して減少傾向にある。2023年には12万1,389人を記録し、この5年間で約20%の減少となった。2013年と比較し、60~64歳前後での年齢階層が大きく減少しており、これは高齢化が進行してきた漁業において、基幹的な労働力であった高齢漁業者層が引退したことを意味する。2070年までは日本では高齢化が進行すると予想されている。

そうした中で、漁業就業者数と年齢構造、世帯の変化について検討した代表的な研究に、加瀬(1993)、山内(2011,2015)がある。これらの研究では、自営漁業就業者数の調整は新規学卒時点でなされていること、自営漁業就業者数が減少した背景には「所得水準の低さ」があること、親世代の縮小に伴い、自営漁業の後継者予備軍である嫡男が減少していること、などが指摘されている。「自営漁業者」の有配偶率・合計特殊出生率が下がり、「所得水準の低さ」を理由に嫡男が漁業を選択しなくなっている現状が確認されていた。

その一方で、「地方沿岸」を子育て環境の観点から評価する研究も存在する。岩澤ら(2024)の研究では、「地方沿岸」が合計特殊出生率、「結婚力総合効果指数」、「夫婦出生力効果指数」の全ての値が全国や他の地域と比較して高い結果となった。

本稿ではこれらの研究を踏まえ、「沿岸漁業」が親から子へと引き継がれる際の困難を、交際・出生・後継の観点から分析する。調査対象地は、内浦湾沿岸漁村(森町、八雲町、長万部町、鹿部町)とし、沿岸漁業を営む自営漁業就業者を対象に、厚生労働省「出生動向基本調査」を一部改変した意識調査を実施した。

今回の意識調査では、漁業が親から子へと引き継がれる際の困難として、得られたデータから以下の3点が明らかとなった。

1つ目は、「ライフプランにおける親の影響力の強さ」があげられた。約65%の未婚漁業者が「結婚の障害」に「結婚生活のための住居」をあげており、次いで「親の承諾」「親との同居や扶養」の割合が高いのも、結婚生活に踏み切れない現状があったことが推察された。

2つ目に、「漁業の収入・生活リズムの不安定さ」があげられた。本調査対象地では、主としてホタテガイ養殖業が営まれていた。これは、漁業種類の中でも特に高収入の漁業であり、本調査でも未婚漁業者では28人中6人が、夫婦漁業者(夫)では24人中8人が、「1,000万円以上」を2023年の年収と回答している。一方で、年収1,000万円未満の者の平均所得は、未婚漁業者では187万円、夫婦漁業者(夫)では275万円と、不安定な側面も確認された。また、夫婦調査では「十分な金額を稼げない」「収入が安定しない」ために、子どもに漁業を継がせない現状があることが明らかとなった。

3つ目に、「未婚漁業者の女性との出会い・交際の機会が極めて限定的なこと」があげられた。未婚漁業者の「交際している」割合は全国の割合と大きくは変わらなかった一方で、「交際経験あり」割合は未婚漁業者の方が47.1ポイント低い、顕著な結果が確認された。未婚漁業者の「交際を望んでいる」割合が、全国の未婚男性より比較的高いことを踏まえると、出会い・交際の機会が極めて限定的な現状が推察された。



11:20~11:40

北海道稚内市における沖合底びき網漁業の操業実態と経営課題

森下瑛斗(北海道大学水産科学院)・佐々木貴文(北海道大学水産科学研究院)

外延的拡大を志向して発展してきた日本の漁船漁業は、国際的な規制強化による漁場の狭隘化や、資源量の不安定化などにより生産規模を縮小させてきた。沖合底びき網漁業(以下、沖底)においても同様であり、農林水産省「海面漁業生産統計調査」によると、漁獲量は1976年の144.9万トンをピークに、2022年には22.7万トンまで減少した。全国で漁船隻数の減少や高船齢化が進行しており、沖底の生産規模縮小は日本の食料供給機能の低下を招く恐れもある。また沖底は、根拠地周辺の地域経済に及ぼす影響も小さくなく、地域経済とのかかわりにおいても経営の持続性が求められている。

本研究では、沖底漁獲量の6割以上を占める北海道を対象に、漁場利用や漁獲特性、市場の価格動向を分析することで、操業実態と経営課題を明らかにすることを目的とする。なかでも、かつて沖底漁獲量が北海道で最大だった稚内市に取り立てて注目する。研究方法は、まず公的な統計資料の蒐集・分析を行う。そして、5隻の沖底船が所属し、自営の水産加工場を保有する稚内機船漁業協同組合を対象とした調査を行い、操業実態、近年の漁獲物の価格動向などの分析を行う。分析結果は、以下の3点となった。

第1に、操業可能な漁場の狭隘化が進み、漁場の選択肢が限られるようになっていることが明らかとなった。2001年までは、ロシア水域への有償入漁で漁獲枠を確保していたものの、現在ではロシア水域で操業できず、漁場の境界が不明な状況下で、不安定な操業を強いられている。その結果、漁業者は漁場の狭隘化に直面するだけでなく、「不当連行」「不当拿捕」のリスクにも直面するようになっている。

第2に、漁獲対象とする主力魚種や漁場利用条件が変化し得ることで、長期的な生産の見通しを立てることが難しくなりがちで、代船建造が可能となるような再生産構造を確立しづらくなっていることが明らかとなった。2000年頃を境にホッケが生産額全体の約5割を占めるようになったけれども、他魚種と比較して単価の変動が大きい。近年は単価が上昇傾向にあるものの、競合他社の積極的な買い付けによる側面や生産量の減少によるところが強く、長期的な傾向とはいえない。また、稚内では2012年からホッケの自主的漁獲制限を行っており、生産拡大を志向することが難しくなっている。そのため現在、経営体が剰余金を十分に積み増すことが容易ではなく、円滑な代船建造が船価高騰もあり困難となっている。その結果、組合所属船の平均船齢は29年(2025年4月時点)に達し、経営の持続性が危ぶまれる状況になっている。

第3に、稚内機船漁業協同組合における製品出荷形態は、加工原料としての「パン凍結」が大部分を占めており、高次加工品の生産や販路拡大の見込みは限定的であることが明らかとなった。そのため利益率が低く、原料買付価格を通した生産者(漁船側)への利益還元も容易ではない状況があった。また近年、資材価格や電力料金といった製造コストの上昇にも直面していた。

本研究では、明らかとなった以上3点から、稚内市における沖底の経営課題を、①漁場の拡大が難しい中で生産力を維持すること、②生産の不安定さにより代船建造資金が十分に確保できないこと、③製品出荷形態が低次加工にとどまっていること、の3点に起因する持続性の低さと結論付けた。



11:40~12:00

イカナゴ漁獲量の低下が漁業経営体に及ぼす影響
―兵庫県坊勢と淡路の漁業者を事例としてー

原弥優(鹿児島大学大学院農林水産学研究科)・藤本麻里子(鹿児島大学)

(1)研究背景と目的

近年、瀬戸内海におけるイカナゴの漁獲量が激減している。兵庫県はイカナゴの漁獲量が 2021年から2023年には全国で1位であった。特にイカナゴのくぎ煮は、兵庫県の播磨灘沿岸地域の人々にとっては郷土料理として社会的・文化的に重要な存在である。兵庫県におけるイカナゴ漁獲量は、1970年代から2016年頃にかけては増減を繰り返しつつも、概ね1万トン程度で推移してきた。しかし、2017年以降は急激な不漁に陥り、2024年には漁期がこれまでで最短の1日のみとなり、漁獲量も過去最低の25トンだった。本研究は、イカナゴ漁獲量の急激な減少が、兵庫県の漁業者に及ぼしている影響を明らかにすることを目的としている。特に、イカナゴ漁を行っている漁業者が多く所属している姫路市の坊勢漁協と淡路市の育波浦漁協の漁業者を対象とした。本発表は、兵庫県におけるイカナゴの急激な不漁が漁業経営に及ぼしている影響を、聞き取り調査から明らかにすることを目的とする。また、イカナゴの漁獲量低下の原因を現場の漁業者がどのように受け止め、またどのような対策を講じているか、またどのような支援が求められているかについて検討する。

(2)方法

2024年3月11日に姫路市の妻鹿漁港においてイカナゴの水揚げの様子について参与観察を行った。また、2024年10月に、坊勢漁協および育波浦漁協の漁業者、兵庫県漁連の職員に対して聞き取り調査を実施した。

(3)結果と考察

坊勢漁業協同組合および育波浦漁業協同組合に所属する漁業者はいずれも、イカナゴ漁獲量の減少によって経営に大きな影響を受けていた。ただし、両漁協が営む漁業種類の相違により、イカナゴ漁獲量減少の漁業経営への影響には差異があることがわかった。坊勢漁協では、イカナゴ漁に加えて巻き網漁、定置網漁、魚類および貝類の養殖など多様な漁業が展開されている。一方、育波浦漁協においては、主に船曳網漁に従事する漁業者が多く、イカナゴの不漁による影響が特に深刻であった。坊勢漁協の漁業者は、船曳網漁に依存せず、巻き網漁や養殖業へ漁業活動を転換することで経営を維持していたが、育波浦漁協の漁業者は、イカナゴ以外には船曳網漁によるシラス・ちりめんの漁獲に限られていた。このため、育波浦の漁業者は漁業以外のアルバイトに従事せざるを得ない状況に置かれていた。イカナゴの不漁、あるいは休漁や禁漁の長期化は、営む漁業種類が船曳網漁に限定される漁業経営体の漁業活動そのものからの撤退をも招く恐れがある。現場の漁業者からは、休業補償や所得補償等の行政支援を求める声が上がっており、各漁協および漁業者の営漁形態や経営実態に応じた支援策の必要性が明らかとなった。
イカナゴ資源の保全および資源回復に向け、兵庫県と大阪府の漁業者はイカナゴ漁の解禁日の設定、漁期の短縮などを自主的に行っている。加えて、兵庫県漁連と県内各地の漁協は、海底耕耘や栄養塩濃度の回復に向けた海への施肥、イカナゴの飼育実験等の様々な取り組みを行っていることがわかった。このような資源保全回復に向けた取り組みにも、適時の資金提供など、現場が必要としている支援と現状の支援にギャップがある可能性が示唆された。



第2会場(講義棟22番教室)

10:00~10:20

明治中期の北海道コンブ漁村における漁民と商人
―浜中の事例―

小岩信竹(東京海洋大学名誉教授)

本稿の課題は明治中期に日本のコンブ販売を担った会社であった日本昆布会社の活動期における北海道のコンブ漁村の実態を明らかにするすることである。本稿では北海道道東の浜中地方を取り上げる。なお、日本昆布会社は1889(明治22)年に設立され、1895(同28)年に解散した北海道庁認可の昆布一手販売会社である。本稿は日本昆布会社と漁民の関係について、日本昆布会社と漁民の間に立って活動した商人である矢幅商店の活動を中心に見ていくことにしたい。なお、矢幅商店は鹿島万兵衛や田中正右衛門とも取引をする商店であった。この商店の店主である矢幅三次郎について、『浜中町史』には当主の名前のみが記載されているものの、その役割や活動の実態については触れられていない。

北海道産の水産物は近世期より俵物として中国へ輸出品されていたが、特にコンブは重要な商品であった。このため明治期に至ると、政府は輸出のための組織を作り、貿易を奨励した。まず、1873(明治6)年に保任社が創立され、中国へ北海道産物を直輸する機能を担った 。この保任社は2年足らずで閉鎖された。その後1886(明治9)年に開拓使と内務省勧商局は中国貿易のための機関として広業商会を創設した。同商会はコンブ、煎りナマコ、アワビ、スルメを取り扱う商社であった。その機能は勧商局が渡した資金を基にして集荷資金とし、物産を集荷して中国に販売するというものであった。同商会は一時期好成績を上げたが、中国人商人との競争もあり、業績が振るわない時期もあった。同商会は1885(明治18)年に廃止された。なお、1882(明治15)年に開拓使が廃止され、北海道庁が開設された。

1887(明治20)年に北海道庁は、赤壁二郎、遠藤吉平、鹿島万兵衛の3名を中国に派遣し、コンブ取引の実情を調査させた。3名は帰国後、コンブの一手販売の必要性を述べた。中国に派遣された3名の意見に従い、北海道庁は1889(明治22)年に昆布諮問会議を札幌で開き、コンブ生産の聯合組合と新たに作られる一手販売会社の間での契約案を承認した。これを踏まえて同年、一手販売会社として日本昆布会社が設立された。本稿が取り上げる明治中期には、コンブは日本昆布会社が一手に購入し、販売していた時期であり、同社が中国にコンブの輸出を行っていた。

日本昆布会社は、コンブの産地ごとにコンブ漁民の組合を結成させて事業資金を貸与した。浜中では浜中組合が結成された。1893(明治26)年においては、浜中のコンブ漁民は直接日本昆布会社から事業資金を受け取るのではなく、矢幅三次郎が経営する矢幅商店が介在し、日本昆布会社より資金を受け取り、コンブ漁民に貸与した。矢幅商店はまた収穫されたコンブを受領して日本昆布会社に送付した。このほか、矢幅商店は日本昆布会社や各地の取引先から生活に必要な消費物資や漁業資材を購入し、これを漁民に掛け売りし、貸与した資金と掛け売りした金額を受領したコンブの売上代金と相殺した。従って、矢幅商店は日本昆布会社の監視下で仕込み行為を行っていたということになる。

ところで山口和雄、中井昭氏は、コンブ漁業経営者は根室・釧路地方の大漁業者、根室・釧路・日高・渡島地方の小経営者、渡島地方の小漁業者がいるとして、コンブ漁業経営者を3分類している。この分類を浜中に当てはめれば、3分類のすべてのコンブ漁業経営者が存在した。田中正右衛門や鹿島万兵衛のような大漁業者のほか、小経営者が操業し、小漁業者も存在した。浜中では大漁業者は不在地主のような存在であり、日本昆布会社の解散後、小経営者が以後のコンブ漁業やニシン漁業、漁船漁業の中心になり、小漁業者と以後の漁業を担っていくといえる。



10:20~10:40

スルメイカ不漁下におけるイカ加工業者の経営対応

刀禰一幸(水産大学校)・佐野雅昭・久賀みず保(鹿児島大学水産学部)

農林水産省「漁業・養殖業生産統計」によると,2010年に約20万トンあった日本のスルメイカ漁獲量は,2016年に10万トンを下回って以降不漁が継続している。近年のスルメイカ不漁下において,刀禰ら(2025) )はPOSデータを利用して日本の小売業におけるイカ加工製品の販売金額の推移が製品カテゴリーによって異なる傾向にあることを示した。2013年から2019年 )の小売業におけるイカ加工製品の販売金額を製品カテゴリー別に見ると,全体の9割を占める「珍味・菓子(ドライ)」(以下,高次加工品とする),「いか丸物・切身」・「刺身」・「ボイル」(以下,低次加工品とする)のうち,高次加工品の販売金額は維持されていた。一方,低次加工品の販売金額は国産スルメイカの漁獲量減少に同期し,販売金額も減少していた。このことから,高次加工業者は輸入イカへの切り替えや,イカ以外の製品製造に切り替える「脱イカ化」を図っていること,低次加工業者は原料が不足し,厳しい経営状況にあることが推測される。

近年のスルメイカ不漁下において高次・低次加工業者はどのような経営対応を行っているのだろうか。現在のスルメイカ不漁下におけるイカ加工業者の経営対応を対象とした先行研究に,三木ら(2018) )と,刀禰ら(2024) )による研究がある。三木らは乾燥珍味業者(本研究の高次加工業者と同意)を対象に調査を行い,立地や企業規模別の観点から経営対応が異なる傾向にあることを示した。また,刀禰ら(2024)はイカ加工業者の経営対応が製品タイプ(製品カテゴリー)や加工度によって異なる傾向にあることを指摘した。しかしながら,製品カテゴリー毎の個別企業の経営対応までは把握されていない。そのため,本研究では高次・低次加工業者が今スルメイカ不漁下で行っている個別企業の経営対応を明らかにすることを目的とする。


研究方法は,三木ら(2018)の研究を踏まえて立地条件や企業規模の観点を加え,高次・低次加工業者10社を対象に,近年のスルメイカ不漁に突入する前の2015年頃から現在までに行った経営対応について聞取り調査を行った。本報告でその調査結果を報告する。


ⅰ)刀禰一幸・佐野雅昭・久賀みず保「日本の小売業におけるイカ加工製品の販売実態~POSデータを利用して~」『漁業経済研究』69-1,2025年,pp.87-99.

ⅱ)2020年から2022年は新型コロナウィルス感染拡大防止策による外食自粛等による一時的な消費行動の変化があったため除外。

ⅲ)三木克弘・三木奈都子「国産原料(スルメイカ)の減少がイカ加工業に及ぼす影響―函館地区の乾燥珍味業者を対象とした2017年調査をもとに―」『漁業経済研究』62-1,2018年,pp.109-119.

ⅳ)刀禰一幸・神村裕之・鈴木大智・加藤慶樹・但馬英知「近年の国内イカ加工業者の実態とその特性に基づくスルメイカ不漁への対応策」『日本水産学会誌』90巻1号,2024年,pp.28-39.



10:40~11:00 

漁協のFacebook運用

奥出裕介(株式会社水土舎水産振興部)

沿海地区の漁業協同組合(以下、沿海漁協)は職能・入会集団であるがために閉鎖的であるとされている。一方、SNSなどを活用して積極的に情報発信を行っている沿海漁協も存在している。先行研究では漁村地域のSNSを活用した情報発信について個別の効果検証がなされているが、その実態を網羅的に整理した事例は乏しい。また、漁協事業の透明化・情報開示が社会的に求められているだけでなく、厳しい経営環境のなかで沿海漁協が事業や経営を維持するためには情報発信が必要不可欠な部分も存在しよう。特に近年は「海業」の振興による地域への集客が水産基本計画および漁港漁場整備長期計画でも位置づけられ、集客に際する情報宣伝の重要性は増している。そこで、本報告では、沿海漁協が行っている情報宣伝のうち、特にSNS(Facebook)を用いた情報発信の実態を整理し、沿海漁協がFacebookを効果的・効率的に運用する示唆を得ることとする。

まず、Facebook内に存在する沿海漁協とその連合会のアカウントを抽出し、アカウントの所有率・運用率、運用実態とフォロワー数との関係性について、定量的に評価した。沿海漁協とその連合会におけるFacebookアカウント所有率は20%であり、企業の一般的なアカウント所有率と比べると著しく低い。一方、アカウントを所有している沿海漁協のうち、そのアカウントを運用していたのは43.9%であり、これは一般企業の水準と近しい。

運用上のKPIに挙げられることが多いフォロワー数については、アカウント運用をしているほうが、していないアカウントに比べて有意に多い。投稿頻度とフォロワー数に明確な相関性は認められなかったものの、一定以上の頻度で投稿したほうが、フォロワー数が多い傾向にあった。なお、投稿内容とフォロワー数に有意な差は見られなかった。

次に、投稿内容からアカウントの運用状況を定性的に評価した。投稿内容を分類別にみると、直売店や直営食堂などの「漁協事業」についての情報発信がもっとも多く、次いで、地域の水揚情報などの「漁模様」を伝える内容、組合で取り扱っている商品やその開発の情報、組合主催のものも含めた地域のイベント情報の発信が多くを占めた。なお、台風接近に伴う周囲の状況や貨物船の座礁情報などの発信が散見された。これは、漁協がFacebookを運用することで、水産多面的機能のうちの「海の安全・安心の提供」機能を発現させていると評価できる。

上記の通り、閉鎖的であると指摘されている沿海漁協においても一定の情報宣伝活動が認められた。先行研究によると、直売店を経営している漁協の割合は24%であり、これはFacebookアカウント所有率と近しい。SNSは設立コストが低いため整備しやすく、直売店などを営む漁協が積極的に設立する動機を得られることを考えると、本調査は先行研究の結果を支持するものになったと言える。ただし、実際にアカウントを運用しているのはそのうちの43.9%であり、集客を要する事業の体制に課題を抱えていると言える。

Facebookアカウントの運用率が低い原因のひとつは沿海漁協における人的リソース不足であると考えられる。沿海漁協の組織構造は、組合員にサービスを提供するという対内的な体制に由来しているので、広報担当の設置といった外向きの営業人材の配置はそのまま費用の増大を意味する。経営体力が低下している沿海漁協にとってこのような費用の増大や新規事業への投資は課題となろう。これに対し、教育効果を目論んだ若手職員の登用や、SNS運用に興味がある組合員などの登用が対策として考えられる。不足している人的リソースが質的なもの、すなわち「SNSでなにを発信したらいいかわからない」というところにあるのであれば、むしろ、これまで閉鎖的だった逆境を活用したい。これまで情報発信が遅れてきたからこそ、些細な情報でも世間からの要望・価値があるのではないだろうか。



11:00~11:20

カナダにおけるCo-managementの評価-日本との比較

東村玲子(福井県立大学)

1.Co-managementとは?

FAOは,Co-managementを「政府と資源の利用者が共に責任を分かち合い,また管理の権限も共有することによって漁業管理を行う方法である」と定義している。なお,FAOでは主として小規模漁業の利益を目途としている点が特徴の一つとして挙げられる。

2.カナダにおける漁業管理の現状-IQとITQ-

カナダの漁業は,大西洋岸と太平洋岸で大きく異なる。大西洋岸は,歴史的に漁業と水産加工業の維持が重要であった。IQは個人経営のズワイガニ漁業,企業経営のエビ漁業にのみ導入されている。一方で,太平洋では企業的経営が古くから発展し,ITQが広く導入されている。大西洋岸での調査によると,漁業者組織であるユニオン(FFAW)の一部の人はIQとITQに対して非常に反対の意見を持つものがいた。特に太平洋岸の状況について「中華系の人々がITQを買い占めており,『本来の』漁業者は漁期になるとITQをリースしなわなければ操業できない状況だ」「このままでは大西洋岸のIQもいずれはITQになってしまうので,何としても防がなければならない」との情報であった。その上で紹介された論文が非常に興味深かったので紹介する。

3.カナダにおけるCo-managementの評価の一例

Evelyn Pinkerton(民俗学者)による ‘Atlantic and Pacific halibut co-management initiatives by Canadian fishermen’s organizations’ “Fish and Fisheries. 2018;1–12.”を参照。大西洋岸のCo-managementによる漁業管理の成功事例をITQ,IQ論者への反論として提示している。この管理は,カナダ・Newfoundland and Labrador州(NFLD 州)のFFAWと連邦政府漁業海洋省(DFO)が共同で行い,具体的にはTACと漁期,漁具規制が導入された(参入者:ライセンス保持者は増加)。FFAWの関心事は,漁業状況の悪化(漁業者数増加の潜在的な問題,大規模船と小型船の間の不平等,TAC調査が引き起こす問題,漁獲努力量の増加,漁獲物の品質低下,漁獲単価の低下,および競争的漁獲から来る漁業者の安全性の問題)と多岐にわたった。そこで,これらの問題を解決すべく組織されたのが,the Atlantic Halibut Sustainability Plan (AHSP)である。この下でFFAWとDFOは共同して漁業管理の問題を解決して行くこととなる。

なお,興味深いのは,AHSPのプログラムマネジャーが,元DFOの職員であることで,この人物が両者の信頼関係の要になったとされていることである。

4.日本のCo-management

日本も新しい漁業法の下で,様々な魚種TAC制を導入するという動きの中で資源評価が行われている。当然のことながら,「水産政策の改革」や「新しい漁業法」が想定するような完璧な資源評価が行えるものの方が非常に少なく,どうしても不確実性(評価の幅)が伴う。この際に,水産庁がステークホルダー会合など公式・非公式の機会を通じて漁業者の意見を聞いているのは,日本では珍しくない。

しかしながら,少なくともカナダ・NFLD州においてはFFAWの幹部が多少の意見を述べる機会があっても,一般の漁業者はFFAWへの帰属意識も薄く,「上意下達」なのが一般的である。



11:20~11:40

「遊漁ライセンス制」という言葉~米国海面での制度適用をめぐって~

森川綾子・櫻井政和(水産庁)

背景と目的

近年我が国において、遊漁による採捕の水産資源への影響が注目されており、昨年水産庁が公表した「資源管理の推進のための新たなロードマップ」では、クロマグロの遊漁における管理の推進に加え、クロマグロ以外の魚種についても漁業におけるTAC化の進展等に応じ、遊漁においても採捕されている資源のうち、実態把握等の優先度が高いものについて、採捕量等の情報収集・推計を推進するとされている。

こうした遊漁の管理や規制の議論において、繰り返し取り上げられるのが、「遊漁ライセンス制」という言葉であり、米国を中心に導入している国のあることが広く知られている。

一方、我が国において遊漁ライセンス制に関する評価や研究報告は少数に留まっている。本報告では、「遊漁ライセンス制」について、米国を中心に海面における導入や現地住民の受入れの経緯について調査した結果をもとに、この言葉のあり方や今後の取り扱いについて考察した。


米国の事例

米国では1864年に初めてニューヨーク州で遊漁ライセンス制が導入された後、内陸州に広がり現在では全ての沿海州に導入され、ライセンス料を徴収する対象者や金額は、居住区分や年齢等に応じて設定されている。

浜本幸生「漁業法における遊漁調整」(1985)では、米国における海面での遊漁ライセンス制が実施されているのは太平洋沿岸の4州のみであり、大西洋沿岸の各州では遊漁関係団体の反対によって海面遊漁のライセンス制は実施されていないと述べられている。また、1981年に州当局へ聞き取りが行われた調査研究では(William 1983)、未導入である21の州当局は遊漁ライセンス制を導入することは、コストよりもメリットが大きく、資金を調達し、増やす唯一の手段と考えている。加えて、14の州当局は、資金調達のための明確なプログラム計画が策定されれば、遊漁者も制度導入を支持するだろうと考えている。しかし、当時の州議会で議論が進まない背景には、一部の遊漁者が資源利用に関する費用負担に感情的に反対していることが理由として上げられた。

また、米国で最も遅く2021年に海面遊漁ライセンス制が導入されたハワイ州では、2018年に制度の必要性やライセンス料の上限、対象者、会計管理や利用用途等の項目について非漁業者の現地住民を対象にした調査研究が報告されており、多くの回答者は導入に反対していない(TuckerWilliams et.al 2018)。現在、ハワイ州の遊漁ライセンス制では、現地住民を除く非居住者のみを取得義務の対象としており、地域事情を考慮した制度運用となっている。


考察

米国における遊漁ライセンス制の適用経緯等については、今後も調査と議論が必要であるが、現時点まで得られた知見から次のような事項が示唆される。

遊漁ライセンス制は、現在の米国では「所与のもの」とされているが、海面での導入当初は反対もあり、全沿海州への適用には約40年を要している。議論と調整に必要とされた時間として認識すべきであろう。

遊漁ライセンス制は、遊漁の振興策とセットとなっているが、遊漁者から見れば遊漁に規制が加わり費用負担が生じるということであり、「魚は誰のものか?」等の議論や思いを惹起させたのではないか。

現在我が国で「遊漁ライセンス制」という言葉を使ったときには、遊漁が振興される等の肯定的な姿がイメージされる。その要因となっている米国の制度は、正確な採捕量の総量が把握される仕組みとなっておらず、実質的な資源管理の機能は持っていない。

以上を踏まえれば、資源管理の文脈から我が国での海面の遊漁に採捕量の報告や総量の規制を課すシステムを検討する場合に、それがおそらくは特異な制度設計であることを認識するとともに、関係者との議論に際し「遊漁ライセンス制」という言葉は使わない、ということを徹底すべきである。



11:40~12:00

内水面サケ採捕禁止条項の再検討と遊漁による資源の確保活用の可能性について

高橋満彦(富山大学教育学部)・佐藤栄治(富山大学教育学部附属実践センター)・
田子泰彦(庄川沿岸漁業協同組合連合会)

サケは遡河性魚類であり、増殖事業として内水面での採捕、採卵、受精、孵化、放流が内水面漁協等によって行われている。また、まとまった量のサケが上る河川の流域において、サケは郷土文化と密接に結びついている。しかし、増殖事業には行政からの補助金や、他の漁業者団体からの協力金は入るものの、増殖事業の収支は厳しく、漁協の内部補助等も小さくないことが、富山県下の例からもわかる。かかる状況は、少なくとも本州の河川では概ね共通するのではないだろうか。

一方で、一部河川におけるサケ釣りは人気を博している。しかし、それは金銭を収受するものの、あくまで「調査」名目である。なぜならば、絶滅危惧種以外の水産動物でサケのみが全国の内水面で一律に採捕を禁止されており、増殖事業や調査研究等の目的で特別採捕許可を得た者以外は採捕ができない規制状況にあるからである(水産資源保護法28条)。漁協組合員の減少高齢化等により内部補助が困難になってきた状況下で、組合外の遊漁者に着目する経営戦略は肯定できる。しかし、調査目的という方便を恒久化するのは持続的とはいえまい

筆者らは、水産資源保護法の内水面サケ採捕禁止条項を立法過程に遡って検討したが、立法趣旨には、GHQの圧力、国営サケマス増殖事業への期待、密漁の横行などがあったことがわかった。そして、サケマス増殖事業への国の関与が減退した現在には、全国一律の規制を行う根拠は失われているとの結論に至った。従って、同条項の改正が望ましいが、現行規定のままでも内水面におけるサケの漁業権設定は排除されていないことにも留意したい。

サケ増殖事業を巡る利害関係は複雑だが、結論として筆者らは、サケの増殖事業が行われる河川において、地域が希望するすれば、増殖事業を行う漁協に第五種共同漁業権を免許して遊漁を解禁し、遊漁収入を得ることによって、増殖事業と郷土文化の持続的発展を図るべきだと考える。